レールの世界は非常に奥が深いため、今回紹介した部分はさわりに過ぎません。自分のレールに対する知識はこれとちょっとぐらいですが、研究をすすめると終わりは見えないかもしれません。興味がある人は、どうぞもっとレールの知識を深めていってください(笑)
どうやってレールを卸すの?
レール輸送は目的地に到着するともちろんレールを卸しますが、ではどのようにして長くて重いレールを卸すのでしょうか。こちらでは2種類の卸し方法を解説します。
短尺・定尺レールの卸し作業
まずは短尺・定尺レールの卸し作業について触れていきます。
短尺・定尺レール輸送は主に
1.目的地に到着後レール輸送車を切り離し留置し、後日レールを卸して返空
2.目的地で機関車を付けたまま卸し、そのまま返空
の2種類の方法が行われています。
短尺・定尺レールの卸し作業は「レール山越器」という道具を使う方法が殆どで、それは上記2種の卸し方法どちらにおいても行われています。
作業開始の数時間前には作業場所周辺にて作業員が集合、点呼や安全確認を行った後、卸し作業を開始します。まずはレール輸送車の締結具のうち主器車の留め具とレールを卸す側の棒を外し、軽トラ等で現場へ運んできた山越器をレール輸送車とレールを卸す場所に跨って設置、チェーンで繋いだクランプでレールを固定し、横移動して卸します。
レールを卸す際、横移動の距離を短くするためにレールを卸す側とは逆側にあるレールはバールを使い卸す側に移動してから横移動する等の工夫も見られます。
卸し作業はフル積載でもだいたい1時間程度で終わります。作業が終わると山越器を解体し、締結具をもとにもどして終了となります。
短尺・定尺レールの場合、基本的に卸しは一箇所にまとめて行います。卸し作業を行い後日、何日かに分けてモーターカーを使い卸した場所から交換当該場所にレールを数本ずつ運んでいきます。
基本はこの山越器を使った卸しを行いますが。場所に依ってはクレーンや他の道具を使った卸しも行われます。北海道ではクレーンや山越器でないレール卸し器具を使う工臨が多く見られます。
卸し作業の動画も公開していますので、どうぞご覧ください。
長尺・ロングレールの卸し作業
次に、長尺・ロングレールの卸し作業について触れていきます。
長尺・ロングレールの卸し作業は撮影している人も多く、ツイッターなどにもよく画像が投稿されているので知っている人も多いでしょう。
まず、卸し作業の前に作業員が事前に決められた集合場所へ決められた時間までに集まり、点呼や安全確認、作業内容確認などを行います。長尺・ロングレール卸しには直接卸し作業に関わる人だけでなく踏切閉鎖の為踏切の前や周辺に立つ作業員なども立ち会います。
そしてレール輸送列車が到着するとレール輸送車上での作業をする作業員はレール輸送車上の発電機を起動させレール輸送車上の灯りを点けたのち、それぞれ中央締結車やエプロン車で準備作業を行います。
中央締結車では、レールを固定している締結具を緩め、レールに干渉しない位置で再び固定します。エプロン車ではレールを卸す側の滑り台を開け、レールの進路を矯正して卸す方向にレールが行くような装置の調整、そしてワイヤーを線路上とレールの端につなげて卸しを開始できるようなセッティング、さらに1本のレールの卸し終わりとその次のレールの卸し初めがつながるような器具の取り付け等を行います。(ボキャブラが少なく伝わりにくい表現ですいません)
中央締結車とエプロン車、それぞれで準備作業が終わったら無線で連絡します。それぞれの準備作業が終わり、安全確認ができ次第、最徐行で発車して卸し作業を進めていきます。
レール輸送車がある程度進むと、既に卸すレールはワイヤーで固定されているのでそれ以上動かなくなり、レール輸送車は進むがレールは動かない、という状態になります。そうなれば、レールは自然とレール輸送車の終わりから落ちていきます。
1本のレールの卸し終わりが近づくと、あと何メートルでそのレールの終わりか、という旨を無線で伝え始めます。そしてそのレールの終わりがエプロン車に到達した時点でレール輸送車は一旦停止し、そのレールの終端と次のレールの端を繋げてしっかり固定し、その作業が終わると無線で連絡ののちにレール輸送車は再び動き始めます。
線路に卸されたレールは、線路上にいる作業員がバールで事前に用意していた線路脇の台の中央に載るように調整していきます。そして完全に台に乗ったレールから犬釘で台に固定していきます。
最後のレールの卸し終わりが近づくと、エプロン車に乗っている作業員は車の端のほうに待避します。というのも、レールの卸し終わりにはレールは輸送車上のレールを固定するものから解放され跳ね上がるので万が一当たったら危険ですからね。 卸し終わりはほんとうに一瞬です。レールの端がストンと輸送車から落ちて、それを線路脇の台の上に固定して終わり。
レールが卸し終わると、片付け作業に入ります。レール輸送車上ではエプロン車と中央締結車の固定具などをもとに戻し、チェックが終わると無線で連絡ののちレール輸送車の発電機を止めてライトを消灯します。ライトが消えた時点でレール輸送車の片付けは終了なので、機外停止位置もしくは近くの駅構内から決められた時間になり次第返空列車として帰ります。
線路上では、卸し終わったレールが踏切上にかかっていた場合はレールを切断し縦移動して踏切から退かします。また、線路上にものを落としていないかの確認、軌間がずれていないかの確認も行います。
意外にも、レールを卸すこと自体は1時間もかからずに終わります。それよりも、準備作業や片付け作業に時間がかかりますし、なによりも1本のレール輸送にはとても多くの作業員の方々が携わっており、彼らのおかげで鉄道が安全に運行できていることを実感させられます。
長尺レールを卸すところの動画も、文章だけではわかりにくいと思うのでどうぞご覧ください
ここでは、基本的に全国のJRで共通のレール卸し方法について紹介しましたが、やはり地域ごとに差異があったり、これとは違ったユニークな卸し作業をする鉄道会社もいます。そのような細かい差異が存在するのもレール輸送の趣と言えるでしょう。
JR各社のレール輸送システムを詳しく解説!
ここでは、JR各社のレール輸送のシステムを詳しく解説していきます。基本的には、レール発送の行程、使用される車両や荷票をメインに紹介します。
JR北海道の工臨
まず、北海道の工臨について解説していこうと思います。北海道の工臨は運行頻度が非常に低く、また目撃などの情報もとても少ないので、とても謎が多いものとなっています。見れたら超ラッキーという感じでしょう。ゆえに当方もわからないことだらけで、日々調べているところです。
<レール発送の行程>

では、レール発送の行程について解説します。JR北海道の工臨の拠点はどこだかわかりますか?大体の人は「岩見沢」と答えるのではないでしょうか。確かに、岩見沢には「岩見沢レールセンター」があるので、岩見沢からチキが発送されるというイメージが強いかもしれません。岩見沢でも間違いではありませんが、実際に発送用のレールを積むのは小樽築港駅になります。
工臨に使われるチキは、普段は岩見沢駅隣接の岩見沢運転所に留置されています。レール発送の何日か前の早朝、DE15形(DE10形)は岩見沢運転所のチキを連結し、小樽築港駅へと運ばれます。そして小樽築港駅でレールをチキに積載し、深夜にレールを各地へ発送します。
そして北海道の各地でレールが降ろされたチキは、今度はまたDE15形(DE10形)に連結されて返却されるのですが、返却先は小樽築港駅ではなく岩見沢駅になります。というのも、もうレールを積載していないので、チキの留置場所である岩見沢運転所に回送さえすれば工臨の発送から返空まで、一通りの流れは終了となります。
<レール輸送の拠点・小樽築港駅>

それでは、北海道のレール輸送の拠点駅である小樽築港駅について、軽く解説していこうと思います。
小樽築港駅は、1910年の開業以来、機関区や客貨車区を隣接するなどして鉄道運行における重要な役割を果たしていました。
また、港から近いこともあり、貨物駅としての役割もあり、北海道の物流においても重要な役割を果たしていました。
小樽築港駅での貨物扱いがあった頃は、港まで線路でつながっている、小樽築港-浜小樽間の貨物支線がありましたが、港から小樽築港駅までの短距離の荷物輸送はトラックのほうが効率的だったために、1984年に浜小樽駅が廃止、そして1986年に小樽築港駅での貨物扱いが終了となりました。現在は港から小樽築港駅までの荷物輸送はトラックで行われ、小樽築港駅には小樽築港オフレールステーションが隣接されています。
さて、ここまでは小樽築港駅と函館本線貨物支線の話をしましたが、これが工臨にも関係してきます。というのも、前述の通り昔は浜小樽駅から小樽築港駅まで線路がつながっていたので、レール輸送も浜小樽から小樽築港駅までの入換輸送を行っていましたが、その線が廃止となってしまったので、鉄道では港から駅までレールを運ぶ術がありません。
と、いうことで、ここでは全国的にも珍しいであろう、トラックを使用したレール輸送が行われています。分岐器輸送はトラックでの輸送が多々ありますが、通常のレールとなると、トラックでの輸送を行ってるのは珍しいのではないでしょうか。
しかし、やはりトラックでは少数しか運べないので、鉄道のほうが効率良いなぁとは思います(笑)
<岩見沢レールセンター>

では、小樽築港駅について解説したので、次は岩見沢レールセンターについて解説していこうと思います。
岩見沢レールセンターは、岩見沢駅に隣接の岩見沢運転所と隣接しているレール加工工場です。
レール加工工場ですから、他のレールセンターと同じように、ロングレールの製造に携わっていると思うでしょう、しかし、北海道にはロングレール輸送がありません...
実は、前は北海道にもロングレール輸送はありました。
それは、北海道新幹線の敷設に伴うレール輸送で、コキ350000形を改造したチ・チラ50000形が使用され、2008年に日車で改造され、2010年まで活躍したのちにミャンマーへと輸出されました。
他にも、岩見沢レールセンターでは青函トンネル用のレールの加工など携わってきましたが、最近はあまり使われてないイメージです。
また、岩見沢レールセンターは北海道炭礦鉄道の工場として1899年に建てられたレンガ造りの建物であり、歴史的価値が高いことから、近代化産業遺産及び準鉄道記念物に指定されています。
現在、岩見沢レールセンターの中の見学は稀にしか行われていませんが、外見はいつでも見ることができます。岩見沢駅から30分はあれば一周の見学は可能ですので、気軽に見ることができます。
<工臨に使われる貨車>

次に、北海道の工臨に使われる貨車について触れていきます。
北海道の工臨に使われるチキは、すべて岩見沢運転所に所属していて、交番検査などは同所で行うが、全般検査などの規模の大きい検査は他の電車と同様に苗穂車両センターで実施されています。
現在、岩見沢運転所にはチキ5200形20両とチキ6000形6両の計26両が所属しており、どちらも2両1ユニットで20Mの短尺レールや25Mの定尺レールの輸送に使われています。
なお、2018年度の改正まで、同所にはチキ5200形28両とチキ6000形10両の計38両が所属していましたが、工臨の運行が少ないことなどから余剰となりチキ5200形8両とチキ6000形4両の計12両が廃車となりました。
現在使用されているチキは以下の通りとなります。
チキ5200形:5203、5318、5319、5321、5322、5323、5331、5333、5335、5352、5353、5354、5355、5356、5362、5363、5364、5365、5379、5380
チキ6000形:6058、6087、6094、6095、6129、6381
また、2018年度改正で廃車になったのは以下の通りです。
チキ5200形:5210、5211、5320、5334、5378、5381、5382、5383
チキ6000形:6000、6032、6078、6256
チキの車両数は廃車の進行によって減ったものの、やはりまだ余剰である感じはありますね。というのも、北海道の工臨は最大で6ユニット12両ほどでしょうが、そもそも工臨の設定が少ないので、今後も廃車が発生する可能性が高いと思われます。
また、2018年度改正までは、チキ6000形のトップナンバーであるチキ6000が所属していましたが、2018年度の改正によって廃車となってしまいました。チキ6000という文字が見れる車両だっただけに残念でなりません。なかなか希少価値の高い車両だったのではないでしょうか。しかし、やはり北海道の工臨は注目度が低いせいか、全く話題になりませんでした。
また、レール輸送とは関係ありませんが、砕石輸送に使用されていたホキ800形も岩見沢運転所に所属していましたが、余剰のために2014年10月に16両一気に廃車となりました。
また、先ほどちらっと紹介しましたが、青函トンネルの北海道新幹線対応工事のためにコキ350000形をロングレール輸送用に日本車両にて改造したチ・チラ50000形12両が函館運輸所に2008年から2012年まで所属していて、2010年まで青函トンネル向けのレール輸送で活躍しました。
チ・チラ50000形は12両1ユニットで200Mの60レールロングレールを最大16本積載でき、チ50001(エプロン車)-チラ50002-チラ50003-チラ50004-チラ50005-チラ50006(中央締結車)-チラ50007-チラ50008-チラ50009-チラ50010-チラ50011-チ50012(エプロン車)、という編成を組んでいました。
同車は北海道ジェイ・アール商事の所有で、JR北海道にリースという形態で使用されていましたが、2010年に運用を終了し、2012年にタキ40000形と一緒にミャンマーへ譲渡されるかたちで廃車となりました。
<北海道の工臨の謎「レール積卸器片持式」>

さて、謎の多い北海道の工臨ですが、多くの謎の中に北海道の工臨の特徴とも言える謎があります。
北海道の工臨の画像を調べると、チキの上に三角形の器具が積載されていることがあります。しかし北海道以外のレール輸送には積載されることはありません。あれは一体何なのでしょうか...
小樽築港駅にその三角形の器具が単体で置いてあったので見てみると、銘板には「レール積卸器片持式」の文字が。
なるほど、この三角形の器具はレールを卸すのに使っていたのですね。一部の工臨にしかこれは載せられていないので、目的地でレールを卸す山越器やクレーン等を準備できない場合に載せてるのではないかと推測できます。
一部の工臨でしかこれが積載されているのは見れませんが、しかしこれは北海道の工臨の大きな特徴と言えるでしょう。ぜひ、この器具を使ってレールを卸しているところを見てみたいですね。
東北地区のレール輸送
JR東日本東北地区の工臨(貨車時代)
JR東日本東北地区の工臨(気動車時代)
さて、前項に引き続き東北地区の工臨について解説していきますが、今度は2017年に導入された気動車キヤを用いた工臨を詳しく説明していこうと思います。JR東海が気動車によるレール輸送を開始して約10年、ついに東日本も東海の車両をベースとした気動車でのレール輸送を開始し始めました。
<レール輸送用新型気動車の導入>
2007年にJR東海が機関車の廃止のために気動車によるレール輸送を開始してからも、他の各社ではまだ機関車+長物車の形態による工臨列車が継続して運転されていました。JR東日本では東北ではED75形、関東ではEF65形などの車齢が40年近くになる機関車や、貨車においてもコキ5500形を改造した車両など、老朽化の進む車両を用いて工臨列車を運行していました。旅客営業ではないので旅客にとってアウトオブデイトであり利便性にかける、といった問題点は無いのですが、それでも古い車両を使っているため検査時や故障時の部品の確保や整備が難しくなってきました。
そこで、2016年になりついに動きが出ます。EF510形をJR貨物に売ってしまったために古い機関車しか居ないので、新型の内燃機関車を製造しようか等と会議でちょくちょく話が出ていたものの、2016年秋になりついに「2017年度に工臨の気動車化を検討」という形で決定しました。
そしてついに2017年9月5日付けでJR東日本ホームページにて「レール輸送用新型気動車の導入」として
プレスリリースが公式に発表されました。
そして公式発表の約2ヶ月後にまずは長尺レール用キヤの甲種鉄道車両輸送が施行されました。2017年10月31日に9774レ:DE10-1723+キヤE195系8車+ヨ8000形が豊川(日車)→西浜松、翌日11月1日に9772レ:DE10-1723+キヤE195系3車+コキ107形6車+ヨ8000形で豊川(日車)→西浜松、そのまま前日発送分と連結して9862レ:EF65-2063+キヤE195系11車+ヨ8000形で西浜松→新鶴見信、9171レ~9173レ:EH500-27+キヤE195系11車+ヨ8000形で新鶴見信→(ヨ)小牛田、というように発送され、11月2日に小牛田運輸区に到着しました。なお、東海のときと同様に各種試験用のプレハブが最後尾のキヤに積載された状態での輸送でした。
さらに翌年には定尺レール用キヤの甲種鉄道車両輸送が施行されました。2018年1月10日に9772レ:DE10-1727+キヤE195系2車+ヨ8000形2車が豊川(日車)→西浜松、そのまま9862レ:EF65-2138+キヤE195形2車+ヨ8000形で西浜松→新鶴見信、9171レ~9173レ:EH500-19+キヤE195形2車+ヨ8000形で新鶴見信→(ヨ)小牛田、というように発送され、1月11日に長尺用より2ヶ月遅れて小牛田運輸区に到着しました。なお、定尺については前の車両に長尺用と同様のプレハブが積載されていました。
先行車として製造されたキヤE195形は、長尺用がLT-1編成、定尺用はST-1編成、というように編成番号が設定され、小牛田運輸区所属となっています。
<編成表と諸元>
では、小牛田運輸区に所属するキヤE195系の編成表と、車両の特徴について軽くまとめようと思います。
| 青森方 | | | | | | | | | | 上野方 | |
| 11号車(Mzc) | 10号車(Tz) | 9号車(Mz) | 8号車(Mz) | 7号車(Mz) | 6号車(Tz) | 5号車(Mz) | 4号車(Mz) | 3号車(Mz) | 2号車(Tz) | 1号車(Mzc) | 製造年月日 |
LT-1 | キヤb>E195-1 | キサヤE194-1 | キヤE194-1 | キヤE194-2 | キヤE194-201 | キサヤE194-201 | キヤE194-301 | キヤE194-101 | キヤE194-102 | キサヤE194-101 | キヤE195-101 | '17/11/29 |
| 青森方 | 上野方 | |
| 2号車(Mzc) | 1号車(Mzc) | 製造年月日 |
ST-1 | キヤE195-1001 | キヤE195-1101 | '18/1/23 |
上記の表が小牛田運輸区所属キヤE195系の編成表です。(2019年4月現在)
キヤE195系は、2017年にJR東海のキヤ97系をベースに耐寒耐雪構造を強化しJR東日本向けの保安装置を搭載した他、積付装置の配置が変更された車両としてデビューしました。長尺用は上記編成表が基本の編成組成ですが、編成組替が容易にできるようになっています。
外見上でのキヤ97系との大きな違いとしては、前照灯が電球ではなくLEDであること、岩切⇔仙台レールセンターで保守用車として線閉のうえ走行する際に点滅させるライトが設置されていることや、締結具等が黄色ではなくグレーで塗装されていることと先頭車側面の帯が緑と黒の帯であることが挙げられます。
以下、主な特徴をまとめた諸元表になります。
諸元表 |
車体寸法 (全長)×(全幅)×(全高) | 長尺用先頭車:18200×2859×4080 定尺用先頭車:18200×2859×3906 中間車:18200×2700×2541 |
台車 | 動力台車:DT86 付随台車:TR269 固定軸距:2100 mm 車輪径:860 mm ボルスタレス式 |
駆動機関 | キヤE195形:360PS(C-DMF14HZC)×1機 キヤE194形:360PS(C-DMF14HZC)×1機 (液体式ディーゼル) |
保安装置 | ATS-P ATS-Ps EB装置 TE装置 |
最高速度 | 95 km/h |
<試運転を重ねて>
過去の試運転の詳細はこちらからテキストファイル形式にてダウンロードできます。
甲種鉄道車両輸送にて小牛田に到着したキヤE195系は、順次試運転を始めました。
2017年の11月2日に小牛田に到着したLT-1編成は、11月から12月にかけて約1ヶ月間、仙台周辺でプレハブを積載した状態で公式試運転を実施。翌年1月には半月ほどレールをフル積載(50N×150M×20本)した状態での試運転を行いました。
さらに2018年の1月11日に小牛田に到着したST-1編成は、1月から2月にかけて約1ヶ月間のプレハブ積載状態での公式試運転を、3月には半月ほどレールをフル積載(50N×25M×46本)の状態で試運転を行いました。
そして5月に入ると、LT-1編成が3両に短縮されたうえで秋田県や新潟県を中心とした試運転を開始。北上線・奥羽線・津軽線・羽越線や新潟県内の各線区で約半月ほど走りました。
6月になると今度は、秋田や新潟での試運転と同じく3両編成で、ついに関東での試運転を開始しました。しかしそこで問題が発生します。関東地区では千葉県内から試運転を始めたのですが、総武本線での試運転をしている際にエンジントラブルが発生し車両故障。数日後に機関車牽引で小牛田へ回送したのちに、郡山に入場し臨時検査(修繕)を実施しました。
6月にはST-1編成にも動きが出ます。LT-1が関東で故障した裏で、ST-1編成にはレール取卸し用のクレーンを設置。ST-1編成の最終形態となりました。
8月初めにようやくLT-1編成の修繕が終了し、下旬には再び関東へ送り込み試運転を再開。6月に予定していた関東線内の各線区のみならず、長野県への試運転も行い約1ヶ月後、9月に東北へ戻りました。
また、試運転を終えたキヤE195系は試験的ではありますが工臨の運用にも充当されます。8月にはST-1編成が仙山線方面(作並転回)へ定尺レール工臨を実施。50N×25M×2本とレールの本数は少ないものの最初の工臨として活躍しました。情報不足で行き先等は把握していないのですが、11月にはLT-1編成も試験的に工臨の運用を行いました。
そして年が明け2019年となり、元号も平成から令和へと変わりましたが、その後はキヤE195系に大きな動きは見られません。(2019年5月現在) ナナゴー牽引の工臨がまだ見られるのは嬉しいことですが、キヤE195系の今後が気になります。悪い噂もちょくちょく耳にしますし...
JR九州の工臨
それでは、JR九州の工臨について解説していこうと思います。JR九州の工臨は、運行頻度こそ高いものの、遠賀川-北九州タ間を除き昼間の走行が殆ど無いためかあまり情報が少なく、謎に包まれていることも多いと思います。ゆえに当方にもわからないことが多く、日々さまざまな情報を集めているところです。
<レール発送の行程>
それでは、まずレール発送の行程について解説していこうと思います。九州には、日本で二箇所あるレール製造工場の一つである新日鐵住金八幡製鉄所がありますから、そこからレールを発送することになります。
八幡製鉄所で製造されたレールは、新日鐵住金八幡の専用線、通称“くろがね線”によって西八幡の製品倉庫まで運ばれます。製品倉庫でJR九州の貨車にレールを載せ替え、日鐵の機関車が入換をして西八幡に留置します。
西八幡に留置されたチキはふつう翌々日までに発送されます。発送日の昼頃にJR九州のDE10が黒崎方よりやってきて、西八幡の貨車と連結し、黒崎駅へと入換運転をします(通称“黒崎工臨”)。黒崎駅に到着した工臨列車は、設定された発車時刻に発車していきます。
ふつう、工臨は黒崎を午後に発車します。黒崎を発車した工臨列車は鹿児島本線を北か南に向かって走行しますが、北に行く列車は北九州タで、南は遠賀川駅で夜まで留置され、夜に目的地まで向かいます。目的地でのレール卸が終了したら黒崎へ回送され、大体の工臨返空は早朝に黒崎に到着、そのまま西八幡へ入換運転を行います。
JR九州の工臨は、短尺・定尺レール工臨(チキ6000形貨車2両1組の20M/25Mレール輸送)・定尺レール工臨(チキ6000形貨車4両1組の50Mレール輸送)・長尺レール工臨(チキ5500形貨車10両の150Mレール輸送)の3種類が運転されています。
長尺レール工臨については、2016年改正までは遠賀川工臨によって黒崎から遠賀川に運ばれた25Mレールや50Mレールを遠賀川駅隣接の遠賀川レールセンターにて溶接し、150Mの長尺レールないしは175M長尺レールや200Mロングレールに加工して、ロングレールチキに載せて発送、という行程でしたが、2014年に八幡製鉄所で150Mレールを製造する技術が確立され、2016年に八幡製鉄所から150Mレールの直送が可能になったため、2016年改正で遠賀川レールセンターは廃止となり、150M長尺レールは黒崎からの直送、175M長尺レール及び200Mロングレールの発送は廃止(その影響でチキ5500形3両とチキ6000形4両が廃車)となりました。現在も遠賀川駅に留置されることはありますが、基本は西八幡に常駐しています。
<くろがね線>
さて、先述の通り日本製鉄八幡製鉄所には鉄製品等の輸送をするための専用線、通称”くろがね線”があります。
くろがね線の運行時刻は不規則のようで、基本的には午前中に走ることが多くなっています。時刻が決まっていないようなので、走っているところが見れるかどうかは運次第、といったところです。
そんなくろがね線においては構内のレール輸送を狙って撮ることはまず難しいのですが、それでも八幡製鉄所では25Mレール、50Mレール、150Mレールなどのレールを製造し出荷しているわけですから、その製品を輸送する列車も運行されていることになります。その列車ですが、日鉄所有の構内専用オリジナル貨車を使い数段積載された状態で運行されているようです。
今後、レールが工場のどの部分で製造され、どの経路でレールの製品庫へ運ばれているのか、研究する必要がありそうです。
<レール輸送の拠点>
レール発送行程の項の補足となりますが、九州の工臨の拠点駅は西八幡(操車場)か黒崎駅、ということになります。西八幡はもともとは黒崎から1.7 km、八幡からは1.0 kmの距離にある西八幡駅があった跡地で、現在はレール輸送の操車場となっていて、黒崎駅の構内という扱いになっていますので、それを踏まえると拠点駅は「黒崎駅」というのが正しいと言えます。
先ほど軽く触れたのですが、西八幡から黒崎駅までの通称“黒崎工臨”は入換運転、つまり構内入換扱いとなります。西八幡は黒崎駅構内の扱いですから、黒崎工臨が構内入換扱いとなるのも当然ですね。しかしこれの面白いのが、実は先ほどの項に画像を載せましたが貨物線を逆走する形での運転となっているのです。それが普通となっているので、貴重な姿とは言えませんが...笑 入換運転ですから入換灯をつけた状態での運転となっています。
少し工臨から話が変わりますが、九州の工臨の拠点駅である黒崎駅は北九州市内でも特に栄えている駅の1つで常に多くの人が駅前にいます。しかし駅から海側は工業団地が広がります。その中に日鉄もありますね。北九州工業地帯として知られるようにその辺りは工業地として発展していて、黒崎駅の構内にはおみくじのロボットがありそれを見たときは驚きました。しかし、初めて黒崎を訪れたときは他の工業地帯よりも住民が多いような印象を受けました。
<遠賀川レールセンター>
最初の項でも述べたとおり、遠賀川には50Mレールを溶接し長尺レールやロングレールを作る遠賀川レールセンターがありました。
遠賀川駅は黒崎駅よりも離れた、だいぶ田舎な場所にありますが、遠賀川という川も製鉄と割と関係があり、製鉄所で鉄を冷却するのに使う水の一部はこの遠賀川から採水しているようです。
さて、そんな感じで鉄との縁がある遠賀川、レール輸送との関係も遠賀川レールセンターの廃止で完全になくなったわけではありません。先ほど軽く触れましたが、黒崎から南下する工臨列車は昼過ぎに遠賀川駅に到着したあとは夜までずっと留置されます。レールセンター廃止後も、工臨列車が休憩する場所としてまだまだレール輸送の役に立ち続けています。
また、黒崎駅とは違って通過列車も多い遠賀川駅ですが、工臨の写真を撮るには黒崎駅では前出しされてしまうのに対してこちらはしっかりと編成で撮れるので撮影には向いていると思います。光の当たり方も午後に順光となり完璧です。
ちなみに、レールセンターは廃止されましたが、レールセンターの施設を利用して現在は遠賀川施設実習センターという訓練施設が隣接されています。レール加工場として鉄路を支えた場所が、今度は訓練施設として鉄路を支えるために存在し続けているのも素晴らしいことです。
<使用される貨車>
それでは、JR九州の工臨に使用される貨車について触れていこうと思います。
JR九州には、先述の通り、定尺・短尺レール(20M,25Mレール)輸送向けチキ6000形・同チキ5200形・定尺レール(50Mレール)輸送向けチキ6000形・長尺レール(150Mレール)輸送向けチキ5500形が所属しています。
殆どの車両が小倉車両センター所属となっていますが、一部のチキ車は大分に所属となっています。
小倉車両センターには短尺・定尺用チキ6000形、定尺用チキ6000形、長尺用チキ5500形が所属していて、その車両番号は以下の通りです。
【※(主)は主器車、(従)は従器車、(中央)は中央締結車を示し、2016年改正後の編成】
短尺・定尺用チキ6000形:6104(主)-6239(従)、6253(主)-6216(従)、6255(主)-6249(従)、6353(主)-6354(従)、6388(主)-6371(従)、6414(主)-6034(従)
定尺用チキ6000形:6014-6300-6351(中央)-6326
長尺用チキ5500形:5704(博多方エプロン)-5709-5533-5718-5802-5809(中央)-5710-5617-5535-5719(小倉方エプロン)
チキ6000形、チキ5500形ともに常備駅表記は「本 黒崎駅常備」となっています。
小倉のチキ6000形は、チキ6000形には通常は床板に木の板が貼られているのですが、小倉車には木の板がなくチキ5200形と似た床板となっている特徴があります。
大分車両センターには短尺・定尺用チキ5200形が2両所属しています。車番は以下のとおりです。
短尺・定尺用チキ5200形:5299(主)-5300(従)
常備駅表記は「分 大分駅常備」となっています。
通常は新レール輸送には小倉車のみが使われ、しばらく大分のチキはそれぞれ古レール輸送がメインとなっていたので、殆ど使われる機会はありませんでした。しかしながら、2019年になってからは小倉車が不調となったためか大分車が黒崎へ空車回送され、実際に小倉車と併結して新レール輸送で運用されています。
鹿児島車両センターにもチキ5293(主)-チキ5294(従)などの短尺・定尺用チキ5200形が所属していましたが、だいぶ前から保留車扱いとなっており既に廃車になってると考えられます。(常備駅表記は「鹿 鹿児島駅常備」でした)
なお、最初の項で述べたとおり、2016年改正で小倉のチキが数両廃車となっています。その時点で廃車になったチキは以下のとおりです。
短尺・定尺用チキ6000形:6049(主)-6077(従)、6122(主)-6177(従)
定尺用チキ6000形:6230-6273(中央)-6261-6259
長尺・ロング用チキ5500形:5706、5803、5545
また、2019年改正において、古レール輸送をメインに使用されていた熊本のチキ6000形が小倉へ廃車回送されました。熊本車は小倉車と違い床板に木の板が貼られていて、だいぶサビたスタンションポールが側面にそれぞれ4~5本ずつ刺さっていて四国車のような感じでした。車番は以下の通りです。(常備駅表記は「熊 八代駅常備」)
短尺・定尺用チキ6000形:6302(主)-6245(従)
西八幡からの発送時、短尺・定尺レールチキと定尺レールチキは併結されて運行されることも数多くあります。
短尺・定尺レールチキは1ユニットに2段積みで最大46本積載、定尺レールチキは3段積みで最大28積載で、チキ5500形は、東北や東海と同じ茶色い車体色、専ら150Mレール輸送に使用されている、最大2段積載です。
<荷票の様式>
最後に、九州の工臨に使われる荷票の様式について、軽く触れていこうと思います。
九州の荷票は、短尺・定尺の一部においては発送日が、長尺においては荷卸し現場の場所が書かれていると聞いたときはびっくりしました。実際に九州へ行き見てみると、確かにそれらがちゃんと書かれていました。
短尺・定尺用の荷票(輸送票タイプ)には発送日、レールの種類とその長さ、本数、貨車の車番、着駅名、荷受人、荷送人(日鉄八幡製鉄所で固定)が記入されています。特大貨物検査票タイプの荷票には輸送経路欄に着駅が、積載限界は第5限界内で荷票中央にレールの種類×長さ×本数を、そして下に検査日が書かれたものになっています。短尺・定尺工臨の荷票については、輸送票タイプと特大貨物検査票タイプが両方ささってる場合と、どちらか一方のみの場合があるようです。この違いについては不明ですが...
長尺用の荷票は特大貨物検査票タイプのものになります。輸送経路欄に荷卸し現場の場所が記入され、積載限界第5限界内、票の中央にレールの種類×長さ×本数、下に検査日、という様式となっています。この荷票は荷卸しをする側のエプロン車にささっています。
最後に~工臨を撮ろう~
最後になりますが、レール輸送の世界は如何でしたか? 全ての項を読んでくれた方もいれば、気になる項のみを読んでくれた方もいると思いますが、レール輸送は、レール輸送に使用される車両や輸送されるレール、またレール輸送先の現場など、それぞれに良さがあると思います。
工臨やレール輸送を追いかける人々は、みな機関車に魅力を感じて撮影しているのが殆どだと思います。実際、自分も機関車に興味を持ち撮り始めましたから。
しかしながら、工臨やレール輸送の魅力は機関車だけでなく、貨車やその運行体型、そして現場の方々の努力にもあるということを理解し、その魅力にも気づいていただきたいです。
そして、ただただレール輸送を追いかけて撮るだけでなく、知識をもって撮るほうがより楽しいですから、ここや実際の現場でさらなる知識を身につけつつレール輸送を撮っていただけると幸いです。